文楽、歌舞伎の仮名手本忠臣蔵を元に、1986年にベジャールが東京バレエのために創作した。
初演の由良之助はパリオペラ座のダンサー、エリックヴアン。
東京バレエのダンサーが引き継ぎ、今回楽日に由良之助デビューする宮川新太は8代目。
今日の秋元康臣はとてもバレエの美しいダンサー。
ベジャールのわりあいクラシック寄りの振付の踊り方がとてもとても美しく見惚れてしまった。
端正で非のうちどころのない踊りでそれだけで充分だけど、端正な踊りから静かな覚悟や強い心が伝わってくる。
ただこれ、現代の若者のタイムスリップの設定にする必要があったのかは最後まで納得しきれなかった。顔世御前とのパドドゥで、榊さんの顔世御前の無表情な圧から、現代の若者が当時の人達の情念に絡めとられて死を覚悟した復讐劇の主役へと突き進んでいく、という流れと考えると、その設定ゆえの行動なのかな、とも思えるけど。
アフタートークで上野水香さんと、3代目由良之助で今回の演技指導もした高岸直樹さんの話で、とにかく由良之助役は踊りっぱなしでソロも多く、大変な役だということを聞いて、そうだよなぁと思った。最初から最後まで出ずっぱり、一幕の最後には長いソロがあるし、二幕は討ち入りを控えてのパドドゥからの群舞を従えて踊りまくる。
主役の出来不出来が全てで、それを背負って舞台に立つのはそれだけでも大変な重圧だよなぁ。
最後は一同白装束に着替えて、逆三角形の体型を整えて切腹シーン。
切腹シーンは一幕の塩谷判官のシーンも強烈に印象的。時代劇で見る正式な切腹の作法をそのまま様式美にして厳かに、ブッ刺して横にかっさばくところまで思ったよりガッツリ描かれる。
歌舞伎よりずっとリアルで、初めて見る外国人なんかは、これがハラキリか!とそれだけでも興味を惹かれるだろう。
今日の塩谷判官は大塚卓。背が高くイケメンで踊れる上に、演技も素晴らしい。最後の気迫はただものでなく、役に没入する集中力も見事だった。
おかる勘平については、ちょっと分かりにくいというのか、バレエのストーリーだけではなく仮名手本忠臣蔵のあらすじも読んでいったけれど、それでも分かりにくくて睡魔が、、本筋にあまり関わりないし、いるのかな、これ、だった。
足立まりあちゃんは初役で頑張っていたけれど、様式美で無表情な役柄、独特のベジャール振付を踊りこなしながら独自の雰囲気を醸し出すのはもうちょっとかなと。
やはり白眉は最後の四十七志の群舞で、迫力満点。
これだけの男性ダンサーがいるバレエ団は東バをおいて他にないことを見せつけて余りある素晴らしさ。
ベジャールの日本文化への関心と理解は強いもので、カブキというバレエを作り上げた中には、ベジャール独自の日本への理解があるのはよくわかった。切腹に至る心情や作法の見せ方には美学を感じたし、高貴な女性たちの押さえた無表情さや遊女達の人形めいたアルカイックスマイルには独特の雰囲気があった。謎の赤ふんどし男子たちはベジャールの好みなのだろうか笑
良くも悪くも、西欧から見た日本はこうである、というのが分かるのも見所の一つだな、と思ったのでした。
由良之助:秋元 康臣(ゲスト)
顔世御前:榊 優美枝
おかる:足立 真里亜
勘平:樋口 祐輝
直義:岡﨑 司
師直:鳥海 創
塩冶判官:大塚 卓
伴内:井福 俊太郎
定九郎:岡崎 隼也
遊女:加藤 くるみ
ヴァリエーションI 岡崎隼也
ヴァリエーション2 池本祥真